医学教育研究者・総合診療医のブログ

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Psychophysiological fidelity: A comparative study of stress responses to real and simulated clinical emergencies (Med Educ 2023)

Peek R, Moore L, Arnold R. Psychophysiological fidelity: A comparative study of stress responses to real and simulated clinical emergencies. Med Educ. 2023 Jul 1. Epub ahead of print.

背景:心理的ストレスの経験は、急性救急における臨床医のパフォーマンスに影響を及ぼす可能性がある。シミュレーションは医療教育において広く用いられているが、シミュレーションが実環境における心理生理学的ストレスを効果的に再現しているかどうかは不明である。そこで本研究では、急性期ストレスに対する心理生理学的反応に、実臨床とシミュレーションで測定可能な差が存在するかどうかを検討した。

方法:この被験者内観察研究 (within-subjects observational study)では、新生児医療の6ヵ月間の研修において、模擬および実臨床の緊急時にストレス評価、状態不安、心拍変動(HRV)を記録した。11人の卒後研修生と1人の上級新生児nurse practitionerが参加した。参加者の平均(SD)年齢は33(8)歳で、8名(67%)が女性であった。データは安静時、シミュレーションおよび実際の新生児救急の直前、直後、20分後に収集した。その場でのシミュレーションシナリオは、認定新生児基礎救命講習で使用されるものをモデル化した。ストレス評価と状態不安は、それぞれ要Demand Resource Evaluation Scoresとshort State-Trait Anxiety Inventoryを用いて評価した。副交感神経緊張に関連するHRVの構成要素である高周波パワーは、心電図記録から求めた。

結果:シミュレーションは、脅威評価の可能性の高さおよび状態不安の高さと関連していた。高周波数HRVは、シミュレーションでも現実の緊急事態でもベースラインから低下したが、シミュレーションの20分後にはベースラインに向かってさらに回復した。観察された条件間の違いの説明としては、参加者のシミュレーションに対する以前の経験や期待、シミュレーション後のデブリーフィングやフィードバックの効果などが考えられる。

結論:本研究は、シミュレーションと現実の緊急事態に対する心理生理学的ストレス反応の重要な相違を明らかにした。脅威評価、状態不安、および副交感神経離脱は、パフォーマンス、社会機能、および健康調節との関連が知られていることから、教育的にも臨床的にも重要である。シミュレーションは臨床医のストレス反応を最適化することを目的とした介入を促進する可能性があるが、その結果が実臨床に移行するかどうかを確認することは極めて重要である。