医学教育研究者・総合診療医のブログ

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Beyond empathy decline: Do the barriers to compassion change across medical training? (Adv Health Sci Educ Theory Pract 2022)

Wang CXY, Pavlova A, Fernando AT 3rd, Consedine NS. Beyond empathy decline: Do the barriers to compassion change across medical training? Adv Health Sci Educ Theory Pract. 2022 Apr 7. Epub ahead of print.

背景:医療における基本的な価値として義務付けられているにもかかわらず、思いやり (compassion)に関する研究はまだ限られている。思いやりを阻害する個人、患者、臨床、状況的要因(障壁)を研究することは、思いやりの起源に関する我々の理解を明らかにし、患者中心のケアを改善するための潜在的なターゲットを特定することができるかもしれない。共感 (empathy)に関連する研究として、医学生は臨床経験の増加に伴い共感力が低下することが示唆されている。一方、医師と医学生を比較すると、臨床経験が多いほど、思いやりへの障壁が低くなることが予測される。しかし、臨床経験によって思いやりを阻害する要因が減少するのか、またどのように減少するのかは不明である。本研究の目的は、思いやりを妨げる要因が、医学生臨床研修によってどのように変化するかを説明することである。

方法:ニュージーランド医学生(N = 351)が臨床研修4-6年目に、医師としての思いやりを阻む要因 (Barriers to Physician Compassion: BPCQ)の測定と、人口統計学、業務負担要因、気質的要因などの共変量に基づいた測定を行った。BPCQは、4つの領域(個人、患者、臨床、文脈)における障壁が、医師/学生の患者に対する思いやりをどの程度妨げているかを指標化したものである。分散分析および回帰分析を用いて、4種類の障壁に対する年次の影響を調査した。

結果:4年生は6年生に比べ、学生関連、環境関連、患者・家族関連(臨床関連は除く)の障壁がやや低く、すべての障壁は研修期間中に比較的に増加した(効果量:ɷ2 < 0.05 )。関連する交絡因子を統制した回帰分析では、学年が低いほど、思いやりに対する障壁が低いことが予測された。また、性別ではなく、自己慈愛 (self-compassion)の高さが障壁の低さを予測した。

結論:共感能力の低下に関する研究の延長線上にある本報告は、臨床研修が進むにつれて、学生が思いやりに対する高い障壁を経験することを示唆するものである。これは、医師と医学生を対比させた既存の研究とは対照的であり、経験が多いほど、思いやりに対する障壁の認知が低くなることが示された。自己慈愛は、ケアへの障壁の増加を相殺する可能性がある。