医学教育研究者・総合診療医のブログ

医学教育、総合診療について気ままに綴ります。

Acting wisely in complex clinical situations: 'Mutual safety' for clinicians as well as patients (Med Teach 2021)

Dornan T, Lee C, Findlay-White F, Gillespie H, Conn R. Acting wisely in complex clinical situations: 'Mutual safety' for clinicians as well as patients. Med Teach. 2021 Aug 9:1-11. Epub ahead of print.

背景:臨床家の能力を確実にテストすることで患者の安全性が向上するという期待は満たされず、臨床家の心理社会的安全性は悪化している。我々の目的は、害を減らすだけでなく利益を増やすことができる「相互安全性 (mutual safety)」を概念化することである。

方法:医学教育がどのように患者を利益の対象として位置づけてきたかについての文化的・歴史的分析 (cultural-historical analysis)をもとに、どのようにして相互安全性を達成しうるかについての実施研究を行った。

結果:医師が道徳的原則を守り、厳格な心の習慣と科学技術を用いるように教育することで、医療は専門職となった。医師の複雑な属性は、患者の複雑な病気や個人的な状況に対応し、医師もその恩恵を受けた。しかし、患者の安全を求める動きが改革を促し、医学教育を複雑なものから単純なものへと方向転換させた。すなわち、臨床医の能力は標準化され、測定可能なものでなければならず、「無能」が原因で損害を与えた臨床医は改善されなければならない。しかし、ますます複雑化し、それゆえに避けられないリスクを伴う診療に単純な基準を適用することは、臨床医の心理社会的健康の低下の原因となる可能性がある。我々は、「賢く行動する (acting wisely)」ことが、複雑さのなかで臨床家が患者に利益をもたらすためにどのように役立つかを検討するために、形成的介入を行った。
我々は、有益性と有害性のバランスが不安定なインスリン療法という日常業務を選んだ。247名の学生、医師、薬剤師が、思考ツールを用いて、現在の臨床能力を考慮し、時には敵対的な臨床環境の中で、この危険な作業をどのように行うのが最善かを計画した。行動変容のための1000のコミットメントと600の学習ポイントを分析した結果、複雑さに対処するには、標準化されていないスキルセットが必要であることがわかった。臨床家は、患者に利益をもたらす新しい方法を見つけることで、自信、内発的動機、満足感、能力、そして正当性の感覚を得た。

結論:医学教育では、診療の複雑さを認識し、医師と患者の安全性を相乗的に高めることが急務である。我々はこれが可能であることを示した。