医学教育研究者・総合診療医のブログ

医学教育、総合診療について気ままに綴ります。

National Survey of Wellness Programs in U.S. and Canadian Medical Schools (Acad Med 2021)

Schutt A, Chretien KC, Woodruff JN, Press VG, Vela M, Lee WW. National Survey of Wellness Programs in U.S. and Canadian Medical Schools. Acad Med. 2021 Feb 2. Epub ahead of print.

背景:米国とカナダのメディカルスクールにおける、ウェルネスプログラムの普及率と範囲を記述することである。

方法:2019年7月、著者らは、米国およびカナダの159校のメディカルスクールを対象に、ウェルネスプログラムの普及率、構造、範囲について調査した。また、プログラムの範囲、メンタルヘルスへの取り組み、評価戦略についても質問した。

結果:159校のうち、104校 (65%)が回答した。90校 (93%, 90/97)が正式なウェルネス・プログラムを実施しており、75校では指導者のための平均FTE (full time equivalent)支援は0.77 (SD 0.76)だった。ウェルネス予算は、大学の種類や規模とは相関しなかった (各々 p = 0.24, p = 0.88)。ほとんどの大学は十分な予防的プログラム (62%, 53/85), 反応的プログラム (86%, 73/85), 文化的プログラム (52%, 44/85)を報告したが、ほとんどが構造的プログラムに焦点を当てていないと報告した (56%, 48/85)。最もよく報告された障壁は、財政的支援の欠如 (52%, 45/86)、次いで管理運営上のサポートの欠如 (35%, 30/86)であった。ほとんどの大学 (65%, 55/84)では、医学生の診察に専任の時間を割いているメンタルヘルスの専門家を内部に配置していると報告した; 43個の大学では、メンタルヘルスの専門科の平均FTEは1.62 (SD 1.41)であり、在籍する学生1人あたりの平均FTEは0.0024 (SD 0.0019)であった。ほとんどの大学 (62%, 52/84)がウェルネスプログラムを評価しており、Association of American Medical Colleges Graduation Questionnaireまたは年次学生調査を使用していた (前者が83%, 43/52,後者が62%, 32/52)。最もよく報告された評価の障害は、時間不足 (54%, 45/84)で、次いで管理運営上のサポート不足 (43%, 36/84)であった。

結論:米国およびカナダのメディカルスクールでは、ウェルネスプログラムが広く確立されており、そのほとんどは、構造的なプログラムではなく、予防的で反応的なプログラムに焦点を当てている。資源配分やプログラム開発のための情報を提供するためには、学生のwell-beingに対するプログラムの有効性を厳密に評価する必要がある。大学は、学生のwell-beingと成功を促進するために、十分な財政的・管理的支援を確保すべきだ。

Qualitative Analysis of Medical Student Reflections on the Implicit Association Test (Med Educ 2021)

Gonzalez CM, Noah YS, Correa N, Archer-Dyer H, Weingarten-Arams J, Sukhera J. Qualitative Analysis of Medical Student Reflections on the Implicit Association Test. Med Educ. 2021 Feb 5. Epub ahead of print.

背景:医療専門職の教育者は、学習者の暗黙のバイアスに対する意識を高めるために、Implicit Association Test (IAT)を使用しており、しばしば強い感情的な反応を引き起こしている。一旦感情的な反応が起きると、学習者の反応と戦略の特定との間のギャップはまだ比較的十分には調査されていない。本研究では、学習者がどのようにしてバイアス緩和戦略を識別しているのかをより理解するために、医学生の臨床実習中のIAT受験経験とその結果のフィードバックの視点を探った。

方法:米国ニューヨーク州ブロンクス医学生が、暗黙のバイアスに関する90分のセッションに参加した。本研究の解析の焦点は、セッション後に、人種ベースのIATを受験し、IATの結果に対する反応と将来の医師としての仕事への影響の両方を記述するように招待する、ナラティブな課題である。著者らは、2013年から2019年までに記入された、ランダムに選択された180本の非同定エッセイを、構成主義的グラウンデッド・セオリー方法論に基づいたアプローチを用いて、分析した。

結果:臨床経験のある医学生は、IATへの反応、戦略の特定のための闘争を伴うバイアスの受容、臨床ケアへのバイアスの影響を緩和するための様々な戦略の特定を含む、連続的な過程を経て、IATに反応していた。IATの結果は、学生に深い感情的な反応を呼び起こし、それまでの思い込みへの疑問を呈し、パラダイムシフトにつながっていた。これらの深くて有意義な省察とは対照的に、学生が戦略を特定することを選択することはほとんどなく、特定した学生はあまりニュアンスのない戦略を提示していたことが、予想外の結果であった。

結論:学生は、自分自身のなかにある暗黙のバイアスを受容し、バイアスのないケアを提供したいと考えているにも関わらず、スキル獲得のための重要な前提条件であるバイアス緩和戦略を特定するのに、苦労していた。教育者は、臨床現場でのアウトカムを向上するために、バイアスの受容とバイアス管理のスキル獲得との間にある溝を埋めるための指導を拡大するよう、努力すべきである。

An act of performance: Exploring residents' decision-making processes to seek help (Med Educ 2021)

Jansen I, Stalmeijer RE, Silkens MEWM, Lombarts KMJMH. An act of performance: Exploring residents' decision-making processes to seek help. Med Educ. 2021 Feb 4. Epub ahead of print.

背景:residentは、患者の最善の利益のために行動する自信や能力が十分でないと感じたときには、助けを求めることが期待されている。既存の研究ではresidentの助けを求める意思決定においては指導医とresidentとの関係に焦点が当てられていたが、一方、職場環境、より具体的には他の医療チームのメンバーがこれらの意思決定にどのような影響を与えているのかについては、注目されてこなかった。本研究は、社会文化的なレンズを用いて、residentの助けを求める意思決定プロセスが、職場環境によってどのように形成されているのかを探索することを、目的とした。

方法:我々は構成主義的グラウンデッド・セオリー方法論を用いて、purposivelyに、およびtheoreticallyに、アムステル大学医療センターの18人のresident (9名のjunior=卒後1/2, 9名のsenioir=卒後5/6)をサンプリングした。半構造化インタビューを行い、residentが患者ケアの提供の間に助けを求める意思決定プロセスを探索した。データ収集と分析は反復的 (iterative)に行われ、constant comparative analysisを用いてテーマが特定された。

結果:residentは、助けを求める意思決定プロセスを「パフォーマンスの行為 (act of performance)」と表現した。すなわち、どのように助けを求めるのかということが、自らの評価に潜在的に影響を与えうることを考慮した。彼らはこのパフォーマンス行為を、安全で室の高い患者ケアを提供するための譲れない優先順位を核とした内部的な「バランスをとる行為 (balancing-act)」の産物であると、表現した。このことを念頭に置いて、residentは、助けを求めることを決定する際に、自立して働ける能力を示すこと、信頼性を維持すること、医療チームの一員として受け入れられることを考慮した。この「バランスをとる行為」は、学習環境の社会文化的特徴、residentと指導医との関係、他の衣料チームメンバーの知覚された親しみやすさに影響された。

結論:本研究は、社会文化的な力が、residentが助けを求めることをパフォーマンスの行為として経験することに影響を与えていることを示唆している。特に、指導医との建設的な関係や、他の医療チームメンバーの親しみやすさに起因する安全な学習環境は、助けを求める障壁を低下させた。指導医は、いつ助けを求めるべきかについて、residentと定期的に会話をすることで、これらの障壁に対処しうるだろう。

Admissions Experiences of Aspiring Physicians from Low-Income Backgrounds (Med Educ 2021)

De Freitas C, Buckley R, Klimo R, Daniel JM, Mountjoy M, Vanstone M. Admissions Experiences of Aspiring Physicians from Low-Income Backgrounds. Med Educ. 2021 Feb 2. Epub ahead of print.

背景:カナダのメディカルスクールでは、低所得バックグラウンド (low-income backgrounds; LIB)出身の学生は、50年以上も前から少ない。この問題が認識されているにも関わらず、カナダのメディカルスクール入学を目指すLIBの医師志望者の経験については、ほとんど知られていない。その結果、カナダのメディカルスクールにおけるLIB出身者の割合を増加させるにあたっての障壁や促進要因については、ほとんど知られていない。

方法:メディカルスクール入学を目指しているLIB出身の医師志望者の経験を理解することを目的とした、質的記述的インタビュー調査を実施した。学部、修士課程、非医学専門教育の各段階における21名の参加者を対象に半構造化インタビューを実施し、医学でのキャリアを築くうえでの障壁や促進要因を特定するための理論的枠組として、交差性 (intersectionality)とアイデンティティ・キャピタル (identity capital)の理論を用いた。

結果:参加者は、医学でのキャリアを築くうえで、社会的、アイデンティティ関連、経済的、構造的、情報的な障壁を経験した。内在的な促進要因としてはモチベーション、自信、態度、戦略、情報検索・整理、金融リテラシー、所得の増加が挙げられた。外在的な促進要因としては、社会的、情報的、財政的、制度的なものであった。

結論:本研究は、カナダのLIBからの医師志望者が遭遇する、入学前の障壁と促進要因を明らかにすることで、文献上の既存の知識のギャップを埋めるものである。本研究で明らかにされた障壁と促進要因は、LIB出身の医学生の入学を支援するうえで、ターゲットとする分野を特定するためのフレームワークを提供するものである。LIB出身の医学生はunderserved populationsにサービスを提供する可能性が高いことを鑑みると、本研究は、疎外された脆弱な患者の健康ニーズを満たす医師を輩出する、カナダのメディカルスクールの社会的説明責任のコミットメント (social accountability commitment)にとって切実なものである。

Later is too late: Exploring student experiences of diversity and inclusion in medical school orientation (Med Teach 2021 )

van Buuren A, Yaseen W, Veinot P, Mylopoulos M, Law M. Later is too late: Exploring student experiences of diversity and inclusion in medical school orientation. Med Teach. 2021 Feb 2:1-15. Epub ahead of print.

背景:メディカルスクールでは多様な学生をリクルートするための努力が増えているが、一方、医学への移行期における学生のユニークな経験についての研究は少ない。本研究では、メディカルスクールのオリエンテーションでの経験が、学生の医療専門職への移行にどのような影響を与えるかを調査した。

方法:カナダの医学生1年生16名を対象に、半構造化インタビューを実施した (2019年4月〜8月). constant comparative approachを用いて、記述的テーマ分析を適用した。テーマを解明するため、逐語録をコード化し、分析した。

結果:参加者は、メディカルスクールへの移行期における社会的志向の重要性を強調し、この時期に複雑な社会的プレッシャを経験していることを指摘した。参加者は、オリエンテーションの間に、dominantな医療専門職アイデンティティをどのように導入されたのかについて共有した。参加者はこの時期の緊張感について指摘し、その多くはdominantなアイデンティティと、過去・現在・未来の自分を中心としたものであった。

結論:医学における多様性と包摂性の長年の問題は、メディカルスクール初日から顕在化している。オリエンテーションは学生を専門職に迎えるための移行期間として意図されているかもしれないが、メディカルスクールが、inclusiveな文化へのコミットメントを意図的に確立するための重要な期間である。アイデンティティ形成がすでに始まっているのにそれを待っているのは、機会を逸している。

Is Resident-Driven Inpatient Care More Expensive? Challenging a Long-Held Assumption (Acad Med 2021)

Weinstein DF, Choi JG, Mercaldo ND, Stump NN, Paras ML, Berube RA, Hur C. Is Resident-Driven Inpatient Care More Expensive? Challenging a Long-Held Assumption. Acad Med. 2021 Jan 25. Epub ahead of print.

背景:連邦政府の支援拡大を求める声と資金削減を求める立法上の脅しが続いている一方で、卒後医学教育 (GME)が教育病院に与える財政的な影響はまだ十分には理解されていない。residentはその他の医療提供者よりも「経済的 (economical)」であることを示唆する研究があるにも関わらず、GMEは高額な投資であると広く信じられている。それに反する証拠が出てきていないにも関わらず、residentが患者ケアのコストを増加させているという思い込みは根強く残っている。そこで本研究では、臨床的アウトカムや、潜在的なコストの違いが資源利用や滞在期間 (LOS)やその他の要素とどのように関連しているのかに注意を払いながら、resident-driven service (RS)とnonresident-covered service (NRS)との間のコストを比較することで、患者ケアコストに対するresidentの影響を検証しようとした。

方法:この前向き研究では、Massachusetts General Hospitalで、2016年7月1日から2017年6月30日にかけて、RSとNRSに入院した内科患者のコストと臨床的アウトカムとを比較した。入院患者の総可変直接費用を、primary outcome measureとした。LOS、30日間の再入院率、診断用放射線科・医薬品・臨床検査室に関連する利用率、およびその他のアウトカム指標も比較した。線形回帰モデルを用いて、対数変換された可変直接費用とサービスの関係を定量化した。

結果:2つのサービス (RS 3250人, NRS 2198人)を利用した合計5448人の患者のベースライン特性は類似していた。RSでは、患者のケアコストはわずかに減少し、LOSはNRSよりもわずかに短く、病院死亡率や30日再入院率には有意差は認められなかった。資源利用率は両サービス間で同等であった。

結論:本研究の知見は、residentが患者ケアのコストを増加させるという長年の過程を覆すものである。外来施設や他の専門分野に一般化することはできないが、本研究は、GMEプログラムのスポンサーシップに関する病院の意思決定、特に連邦政府によるGMEへの資金提供が制限されている、あるいは追加的な削減の対象となっている場合には、情報提供に役立つであろう。

Targeting Causes of Burnout in Residency: An Innovative Approach Used at Hennepin Healthcare (Acad Med 2021)

Quirk R, Rodin H, Linzer M. Targeting Causes of Burnout in Residency: An Innovative Approach Used at Hennepin Healthcare. Acad Med. 2021 Jan 25. Epub ahead of print.

背景:米国では、医師のバーンアウト率が高い。医師やresidentに対するバーンアウト削減戦略の成功についての報告がいくつかあるなか、一方で、residentについて問題を縦断的にアプローチした戦略はほとんどない。

方法:2014年から2019年にかけて、睡眠、個人的時間、professional fulfillment、関係性への影響、プログラムへの認識、同僚からのサポートなどresidentのバーンアウトに関連する要素の評価のため、調査を行った。ミネソタ州ミネアポリスセーフティネット病院であるヘネピン・ヘルスケアでは、著者らは、内科residentから毎年データをとるため、および研修期間中のワークライフに対処する継続的な改善方法を開発するためのevidenceに基づいた概念フレームワークを用いるための、再現性のあるプロセスを作成した。介入内容には、必須のライフイベントに対する補償、residentの業績を祝うニュースレター、時間外のコンサルトポケベルコールの廃止、病棟のsenioir residentのextra day off、夜間チームへのケアパッケージの配布などが含まれていた。

結果:2014年から2019年の毎年について、40/66 (60.6%)から62/73 (84.9%)のresidentが調査を完了した (平均回答率は6年間で72.1%)。調査結果はresidentと様々なフォーマットでシェアされ、フィードバックが求められ、バーンアウトの削減が、プログラム指導者の優先事項であることが示された。毎年、高いprofessional fulfillmentスコアが記録された。バーンアウトの自己申告率は25%-35%だった。共感、睡眠障害、同僚のサポートの認知において、有意な改善が見られた。

結論:著者らはバーンアウトを最小限にする計画をつくったが、これは次のようなevidenceベースのドメインを含んでいる: 仕事量、コントロール、努力と報酬のバランス、ワークライフバランス、公平性、価値観、サポート、男女平等、道徳的苦痛、道徳的障害。現在進行中のさらなる介入には、講義のためのprotected time、トラウマを考慮したケアトレーニング、職場の人種差別への取り組みなどがある。著者らは、residentと教員のためのwell-beingの統合された文化を実現し、効率的・効果的・公正な学習環境を育成し、バーンアウトを減らし、最終的にはバーンアウトを排除することを目指している。

個人的所感:Acad MedのINNOVATION REPORTより。このコーナーは、リサーチとしては発展途上だとしても、現在進行形のプロジェクトについて学べるので、なかなか面白いです。「目的」で述べられている通り、burnoutやwell-beingについての領域のリサーチは、longituidinalなリサーチが今後必要なように感じます。