医学教育研究者・総合診療医のブログ

医学教育、総合診療について気ままに綴ります。

"I found myself a despicable being!": Medical students face disturbing moral dilemmas (Med Educ 2021 )

Ribeiro DL, Costa M, Helmich E, Jaarsma D, de Carvalho Filho MA. "I found myself a despicable being!": Medical students face disturbing moral dilemmas. Med Educ. 2021 Jan 1. Epub ahead of print.

背景:医学生の道徳的経験の心理学的領域は、医学教育の文献では、倫理教育やプロフェッショナリズム教育の文脈のなかで、接線的 (tangentially)に探索されていることが多い。本研究では以下により理解を深めることが目的である。 (1) 臨床現場の始めに経験したモラルジレンマの性質を調査する。 (2) 医学生のこれらのジレンマに対する感情的反応を探索する。 (3) 医学生がこれらジレンマが自らのプロフェッショナルとしての成長に及ぼした影響をどのように感じているかについて調べる。

方法:本研究は2017年に実施した横断的質的研究である。最終学年の医学生を対象に個別インタビューを行い、Thematic Template Analysisを適用した。インタビューでは、医学生が臨床現場で経験した道徳的ジレンマを表現したRich Pictureを描いた。

結果:道徳的ジレンマは4つの次元が絡み合っている。1つ目は相反する道徳的価値の優先順位付け、バランス、適用への学生の葛藤に関連したものである。2つ目は、学生の内なる動機と道徳的行動を制限する外部の制約との間の衝突である。3つ目は、学生の現在の態度と彼らなろうとしている医師の望ましい/理想的な態度との間の衝突である。4つ目は、道徳的な決定の間に相反する倫理原則の重み付けである。
医学生の感情的反応は、特に道徳的決定が彼らの道徳的信念と一致していない場合には、激しく、長続きし、顕著な残留効果を持つものであった。道徳的ジレンマは、医学生のプロフェッショナルとしての成長に影響を与える衝動的経験であり、剥離または道徳的勇気の成長の両方において最高潮に達しうる。

結論:道徳的ジレンマは、医学生のプロフェッショナルとしての成長に影響を与える、記憶に残りやすく、複雑で、感情的に激しい経験である。医学生の道徳的ジレンマについて理解することは、教育者が、これらの経験を予測し省察するための教育活動を考案するのに役立つ。これらの経験は、学生のプロフェッショナルとしての成長を養成するための洞察を与えられ、一方で学生の考えや感情に耳を傾けてそれを正当化することができる、判断力のないファシリテーターの指導のもとで行われるべきである。

個人的所感:非常にいい研究だと感じました。道徳的ジレンマは医学生にとってとてもよくある事象であり(※ ただしあくまでも私見ですが、日本だと研修医のほうが多そうです)、プロフェッショナルとしての成長に、正の方向にも負の方向にも大きく働きうるものですし、背景に隠れているものが深くインタビューで掘り起こされています。