医学教育研究者・総合診療医のブログ

医学教育、総合診療について気ままに綴ります。

Meritocratic and Fair? The discourse of UK and Australia’s widening participation policies (Med Educ 2020)

Coyle M, Sandover S, Poobalan A, Bullen J, Cleland J. Meritocratic and Fair? The discourse of UK and Australia’s widening participation policies. Med Educ. 2020 Dec 21. Epub ahead of print.

背景:世界的に見て,医学を学ぶために必要な学力や個人的な属性を持った人々は,社会人口統計学的要因に関連した不利益を経験している.各国政府は,医療への参加拡大 (widening participation; WP)を目的としたマクロレベルの政策を通じて,この問題への対処を試みてきた.政策は国によって異なり,WPに関する国際的な政策言説を調査し比較することから多くのことが学べることを示唆している.本研究のquestionは以下の通りである,英国とオーストラリアにおいて,高等教育や医学教育への参加拡大 (WP)についての言説はどのように位置づけられているのだろうか.

方法:系統的な検索戦略を,国連持続可能性目標2015に触発された,5つのアプリオリなテーマにしたがって行った.2008年から2018年に発行された17個の政策文書 (英国9個,オーストラリア8個)が見つかった.分析は2つの包括的で反復的な段階を経て行われた.1つは文書分析,もう1つは政策関連の言説のなかにあるパワーダイナミクスを明らかにすることを目的としたフーコーの批判的言説分析 (Foucauldian critical discourse analysis)である.

結果:英国では,メリトクラシーのなかでの社会的流動性と個人の責任に関する言説が依然として最重要視されている.対照的に,オーストラリアにおいて支配的な言説は,公平性と労働力の多様性を達成するための社会的説明責任 (social accountability)であり,アファーマティブ・アクションとコミュニティの価値観が優先されている.両国間のWP政策と制作手段の類似性は,社会的変化のための内部的な推進力の発散と関連し,時間経過とともに変化してきた.両国ともローカル・グローバルのいずれの目標も達成するために努力することに内在する緊張感を認識している.しかし,オーストラリアは「国家建設」に向けて努力する際にコミュニティの価値を優先しているように見受けられるが,一方英国では個性とメリトクラシーに焦点を当てているため,不利な立場にある人々のための平等を達成することは相反するように見えることがある.

結論:WPの政策と実践は位置づけられ文脈に沿ったものであり,よって,ある文脈から別の文脈に教訓を外装するときには注意を払わねばならない.何がWPの政策を動かしているのかを理解しようとするには,その国の歴史とその国での周辺化の性質を精査しなければならない.

個人的所感:結果自体は概ね予想通りのものでしたが,扱っているテーマ・リサーチ手法とも,なかなか興味深かったです.